ほぼ日イベント「相馬で気仙沼さんま寄席」レポート

震災以降毎年気仙沼で行われる熱いお祭りが今年は相馬で。

2017.09.24

カルチャー

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相馬で気仙沼さんま寄席??

2017年9月17日。相馬に気仙沼がやってきた!

…事情を知らない人からすれば、いったい何のことやらわかりませんね。結局、相馬なのか気仙沼なのかすらハッキリしませんし。

もうちょっとだけ丁寧に解説すると、糸井重里さんの「ほぼ日」が震災以降開催してきたイベント「気仙沼さんま寄席」が、福島県相馬市に「相馬で気仙沼さんま寄席」としてやってきたのです。

「気仙沼さんま寄席」がいちばん最初に開催されたのは、震災翌年の2012年3月25日のこと。落語をするのは、なんとあの有名な立川志の輔師匠。もう、それだけでもとても魅力的ですね-。

震災後…とは言ってもこれは慰問ではなく、気仙沼の人達が「ほぼ日」の方々と共にスタッフとして働くというイベントでありました。

もともと気仙沼の予算で「目黒のさんま祭」に送られていた、さんま。

そのさんま代をみんなで稼いでしまおう!というところからのスタートであったとのこと。

結果は、大盛況。大勢の人がたくさんの観光バスで気仙沼へとやってきて、「震災後にはじめて、沢山の観光客が押し寄せた!」というイベントになったそうです。街にあふれる、沢山のひとの笑顔。震災の傷跡もまだ深いあの頃の気仙沼やその空気を知らない私にも、それがどれだけスゴいことなのかだけは伝わってきます。

それから毎年、さんま代を稼ぐ目的でなくとも気仙沼でのイベントは続いてきました。きっと地元のみなさんに愛されるイベントになったんですね。糸井さんは毎年3月11日には、とくに大きな要件がなくても毎年気仙沼にいらっしゃるそうです。

説明が長くなってしまいましたね。その「気仙沼さんま寄席」が、2017年の今年は縁あって福島県の、相馬市にやってきたのでした。

いざ!会場へ!

当日の会場である相馬市民会館には、お昼13時の開場前から、沢山の人、人、人。開場前から一番乗り目指して並んではみましたが…ごめんなさい、正直こんなにめちゃくちゃ混んでるなんて想像していませんでした。

物販スペースには、地元相馬の名産品や気仙沼のおいしい品々がいっぱい。ほぼ日のグッズ販売ブースなんかもありまして、中でも大人気だったのが、震災後の福島を語る上で欠かせない本『知ろうとすること』。糸井重里さんと早野龍五先生の対談を記したもので、色んな意味でたくさんの優しさが詰まった本です。今は「ほぼ日」のフェローもやっていらっしゃる東京大学の早野先生は、震災後の福島復興に深く関わってきたスゴい先生であり、けっこうな有名人なのです。

その早野龍五先生ご本人が直接この本の売り子さんをしていたものだから、もう大賑わい。本をすでに持っている方までもが直筆サイン本を入手するべく行列に並び、用意していた本はあっという間に完売してました。みなさん、ミーハーですねえ…。あ、もちろん私も買いましたよ、サイン本。私もミーハーの一員です。


他の物販スペースも、とっても賑やかでフレンドリー。なかでも気仙沼ブースの方々は、溢れんばかりのとびきりの笑顔と勢い。おおらかというか、形容しがたいほどの動的な勢い。港町だからなんでしょうか。

彼女達いわく、「羞恥心は海に流してきた」(だったかな?)。なんというかもう、そのエネルギーに圧倒されました…。

でもこんな大きなイベントなのに、なんとなくやわらか~な空気感が全体的に漂っているのは何故なのでしょうね。入場してくる人達もみんな、どことなく楽しそう。かなりの人混みなのに、なんだかアットホーム。へんなの。

後から聞くと、スタッフは地元相馬や福島県内の人、気仙沼の人、東京の人、山形の人、そのほか。いろんな場所の人がまぜこぜになっていて、お客さんも東京から来たり、気仙沼からきたり、相馬の地元の人だったり、福島県内から来たりと本当にいろいろだったとのことだそうです。そういえば富山とか岐阜とか、鹿児島から来た方なんかもいましたね。

だからなんでしょうか。誰でも大歓迎、一見さんウェルカム。さあさあ、みんなでゆるりと楽しみましょう、そんな空気が終始流れていました。

なので、リア充っぷり溢れるキラキラしたイベントなんかがちょっぴり苦手な、人見知りの私にとっても意外と?居心地が良かったのでした。

寄席ですよ、寄席。

さあ、いよいよ志の輔師匠の登場…!の前に、お弟子さんの前座。あの有名な「目黒のさんま」のあらすじを、じっくりと味わえました。さんま寄席というだけあって、王道の演目ですねー。

その後は今度こそ、いよいよ志の輔師匠登場。とっても気さくな方で、ご自身の出身である富山のお話などもして場をさらに和ませてくださいました。なんでも、富山では人口の半分がホタルイカなのだとか…。(笑)

それでも、落語が始まるともう、空気が色を変えるとでもいうのでしょうか。非常に高い実力のプロ、すなわち達人が持つ独自の、強大な結界のような世界がそこに拡がって会場が一気に呑み込まれていくかのようでした。

「人に伝える」というもの。その手段はさまざまで、書く、話す、描く、歌う…など、いろいろありますが。

そこで体感したものは、いわば「噺」(はなし)というものの一つの究極形。その真髄の一端に触れたかのようであり。

たとえるならば、まるで剣豪が放つ剣気とも言うべきだったでしょうか。佇まい、間の静寂、呼吸一つ。振るう言葉は、おおよそ無駄のない動きで一気に迫りくる剣戟(けんげき)にも似ていたのかも知れません。

笑い話も、人情ものも、その場にいる全ての人間を自分の創り出した「世界」に引き摺り込む。もはや圧倒的でありました。

少しだけ時間を巻き戻しますが、このクライマックスに至る前。この演目の直前には、観客として来ていた矢野顕子さんによる飛び入りのステージがサプライズで行われたのですが、そこにもやはり、矢野さんのキラキラと煌めくような、艶やかな歌声による「世界」が拡がっておりました。

持論ですが。さきほどもお話したような、「人に伝える」ということ。その多様な表現方法には、それぞれが持っている「世界」というものがある…と私は思うのです。それぞれに異なった感性があり、美しさがある。

今回の糸井さんのさんま寄席を取り巻くアレコレが何であったのかを、私も自らの「書くこと」という表現で精いっぱいに伝えようとするならば。

思えば、これは最初に入場したときから、スタッフや会場全体、観客にまで感じていた空気感とも共通していたものでもあって。

さまざまな感性が、いわば異なる「世界」が、渦を巻いてまじりあうかのような、そんな「場」ではなかったかと思います。

そこに集まった方々が持っている、それぞれの「世界」。中には、単体でもすでに圧倒的な存在感を持つ人同士、その異なる「世界」同士をも自在に掛け合わせて新たな美や表現、いわば「場」を創り出し、しかも厳かというよりも優しく、沢山の人たちを巻き込んで笑顔にしていく。こうした「場」を、文化を創り出し、笑顔と力に変えていく。それこそが糸井重里氏の持つ、稀有で圧倒的な「世界」なのかも知れないな、と感じました。

今回のさんま寄席を終始包んでいたのは、そうやって沢山の「世界」同士が共鳴しあって出来た、大きく優しい、新しい独自の「世界」でした。

もしもこれが、「文化の持つ底力」なのだとすれば、なんと大きな力なのでしょうか。少なくとも私は、震災後に、「文化の力」というものを、こんなに強く、大きく、頼もしく感じたことはありませんでした。むしろ震災後には色々あって、沢山の「文化人」達には幻滅させられることがあまりにも多すぎたのです。

しかし、このさんま寄席は、糸井重里さんの創り出した新しい「世界」は、これからの被災地を助けていくのはきっと、こういう文化の力ではないかな…なんて私に思わせるには充分過ぎるほどのものでありました。おかげさまで、元気が出ました!

お祭りはまだまだこれからも続いていたりして…

舞台の後は、会場を結婚式場に移しての打ち上げ。相馬市長なども交えて、気さくに気楽に、沢山の人たちがお話する場が設けられました。

有名人と、こんなに近い距離でフランクにお話できたのもそうなのですが、ここでも終始、人や土地、そしてそれらが持つ文化が大切にされている場が広がっていたのです。

そういえば言い忘れていましたが、今回のお祭りは、きちんと地元の人用のチケットも別枠として沢山用意されており。寄席を見たこと無い…なんて人も来やすいように、地元の人たちを出来る限り巻き込めるように、沢山の仕掛けが準備されていたのです。だから、決して「外から来た人たちが、自分たちだけ勝手に楽しんでいた」という性質のお祭りではありませんでした。それは、打ち上げの次の日にも、ハッキリと示されていたのです。

翌日は、朝から朝市。気仙沼の人たちがサンマを焼き、沢山の観光バスが乗馬体験や歴史探訪、被災地としての話や、美味しいもの探しのツアーなど、それぞれのコースごとに相馬市内を駆け回り、地元の方とふれあいつつ交流を深めておりました。


何人もの方が、「相馬を知りませんでしたけど、次の野馬追には絶対にまた遊びに来ます!!」と語っていたのがとても印象的。なんだかまたすぐに会えそうな、そんな空気感。実に温かくて、やわらか。お祭りの「後」にも続く縁が、このとき確かに築かれていたのかもしれませんね。

沢山の方が相馬の、福島の文化に触れて。そしてこの土地の文化もまた、交じり合うものの一つとして新しい「世界」の一つに溶け込んでいくのを感じながら、私はお祭りの場を後にいたしました。とても名残惜しくはあったのですけどね。私自身も何人かの方とは、個人的に新しいご縁も頂き、とても幸せな時間を過ごすことができました。改めて、このお祭りに感謝すると共に、参加させて頂けた喜びをかみしめるばかりでありました。

──

そうそう。最後になりますが、そういえば今回、初めて相馬を訪れたという志の輔師匠にお伝えしそびれたお話がありました。

この相馬という土地は、江戸時代に飢饉で人口が激減し。「相馬二編返し」という民謡を引っ提げて、ある土地からの沢山の移民を募ったことがありました。

志の輔師匠の出身地である富山県は、ご本人談によれば人口の半分がホタルイカだという話でしたが。(笑)

でもそれはきっと、昔、ホタルイカと同じくらいの数の人たちが、移住してしまったからだと思うのです。

もうお分かりですね。

相馬には、志の輔師匠のご出身である富山の人たちの末裔が、沢山根付いています。

今回の、この不思議なご縁でつながった人たちが合わさって出来た新しい「世界」が、その文化が大きな力となって、より沢山の人の笑顔となることを、心から願う次第です。

こちらの記事もどうぞ。
→【ほぼ日イベント】完成直前!あんざい果樹園のツリーハウスに行ってきました。

林 智裕 (Hayashi Tomohiro)

フリーランスライター。1979年生まれ。いわき市出身、福島市育ち。 現在 【Media Rocket】の他、福島の美酒と美肴のマリアージュを毎月お届けする【fukunomo(ふくのも)】、地域の魅力やグルメ情報を発信する【福島TRIP】など複数メディアにて連載中。 また、【SYNODOS (シノドス)】【ダイヤモンドオンライン】【Wedge】【現代ビジネス】などでは不定期でビジネス向けの記事を執筆。 書籍『福島第一原発廃炉図鑑』(開沼博・編、太田出版)ではコラムの執筆を担当。

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