ユニーク企画とソーシャル活用で年間1000人を集める住職が考える「これからのお寺のありかた」

あるときはクリエイター、あるときはトレイルランナー、そして本業は住職。

2017.10.20

インタビュー

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福島市で422年つづく安洞院(曹洞宗)は、横山俊顕住職が企画するユニークなイベントで知られています。お寺とヨガとおいしい食事を掛け合わせた「テラヨガメシ」は毎回満員の大人気企画。写経会や座禅会も行われ注目されています。さらにイベントの様子や寺院の季節の写真をホームページをはじめ、FacebookやInstagramなどソーシャルメディアを駆使して発信しています。昔からお寺が培ってきたものを大事にしつつ、新しいものを組み合わせる発想法について横山住職にお話をうかがいました。
安洞院ホームページ:http://antouin.com/

■イラレとフォトショが使えるお坊さん

熊坂仁美(以下、熊坂):横山さんと最初にお会いしたのは曹洞宗のお坊さんのための機関誌『Kuu:』の特集でしたね。

横山俊顕住職(以下、横山):全国の若いお坊さん向けの情報誌で、「Vol.6 そうだ、webをつくろう。」で、熊坂さんにソーシャルメディア活用のヒントについて提言をもらいました。それまでは、私もソーシャルメディアに触れることはなかったんです。

熊坂:あれから一気にソーシャルを実践されていきましたよね。それにしても、あのとき取材をいただいて、ものすごくクリエイティブでエッジの効いた雑誌なので驚きました。この『Kuu:』の取材は曹洞宗総合研究センターの研究員としてのお仕事ということですが、こちらはどんな機関なのですか。

横山:曹洞宗総合研究センターは曹洞宗のシンクタンクの役割を担っていて、こういった機関は各派で持っていますね。主に曹洞宗の教えを学術的に深く研究するセクションと、現代において何を伝えていくべきかを探求する布教教化のセクションに分かれています。中には現代の臓器移植や生命倫理など、既存の宗教では答えが出ない問題を研究してる方たちもいます。

横山俊顕(よこやましゅんけん)さん。 安洞院17世住職。曹洞宗総合研究センター委託研究院。1979年7月19日生まれ。1998年福島県立福島高等学校卒業。2002年駒沢大学仏教学部禅学科卒業後、曹洞宗大本山總持寺で修行をし、2003年に安洞院副住職に。2015年より現職に就任。 安洞院ホームページ

熊坂:この雑誌での横山さんの役割は。

横山:編集、記者、撮影など全般を担当しています。DTPはお坊さんの中Illustrator(デザインソフト)やinDsign(レイアウトソフト)などAdobe社のソフトを使える者がいて、ネット上でやり取りしながら作っています。

熊坂:お坊さんとAdobeの組み合わせは新鮮ですねー。

横山:私たちの前の代から、教化教材を作る研修に、仏像をかっこよく撮ったり、魅せるためのIllustrator(デザインソフト)やPohotoshop(写真画像加工ソフト)の講習があったので扱うことができるんです。Wordだけでは作りきれないところがあるので。

熊坂:世間一般のお寺のイメージからするとかなり進んでいますね。

横山:今は曹洞宗だけではなく、各派がこういうセクションを持っています。浄土真宗の築地本願寺でも講演会で身体と性の不一致、セクシャリティの問題に宗教がどう応えるかを扱うなど、先を歩いているのではないでしょうか。その都度その都度新しいテーマが湧き上がってきますので、私たち曹洞宗でも、問題意識を持って取り組んでいるんです。
今はお寺をやりつつ、月に1~2回東京に出向いて編集をしたり、別な問題のプロジェクトができれば出向いてお手伝いしています。

熊坂:曹洞宗の方は全国にわたると思うのですけれども、編集会議や、連絡はどうしているのですか。

横山:基本的には、メールでやり取りをして、クラウドやGoogleを使ってシェアをして、たまに顔を合わせています。曹洞宗の全国組織の青年会では、何十人も集まっていて、また別な機関誌を作っているので別な方法を使っているかもしれません。

熊坂:すごく大きな組織なんですね。

横山:全国の曹洞宗の寺院数は約15,000、福島市にはおよそ110のお寺があって半分は曹洞宗です。

熊坂:Facebookを拝見すると、今、全国を取材されていますよね。

横山:次号の取材です。島の特集を組んで、離島のお寺ですとか、インバウンドに共通するような離島で成功している事例、移住者の支援の様子を伝えることによって、過疎地のお寺で役に立つようなコンテンツがないか探っているんです。

写真提供:横山俊顕さん 五島列島の取材時に撮影した隠れキリシタンの墓

■毎朝2時間のトレイルランニング

熊坂:横山さんはこういったお仕事の他に、トレイルランナーでもあるんですよね。

横山:はい。毎朝4時に起きて原稿を書き、朝ごはんを食べ、娘を学校に送り出したあと、山に行く日課です。1日10km走っています。7時から9時の2時間をトレーニングに使っていて、今日も30km走りました。

熊坂:30km ! すごいですね。それは、健康のためですか。

シューズを履きかえて裏山へ

横山:メンタルの半分はフィジカルでできている、健全な体をもって健全な心が宿るというのが僕のモットーです。心と体はやはりひとつなので、いいお話で心が健康になるだけでは何か満たされない。お寺は健康を伝える場所でもあると思っているので、まずは自ら実践をしているわけです。

熊坂:大会にも出場しているのですよね。

横山:はい。年1回80キロのレースにエントリーしています。でも一番の目的は里山の管理のためですね。トレーニングをしながら、倒木の片づけをしたり、枝を打っています。たまに背中に鉈(なた)を背負って走っていますよ。

熊坂:その姿見てみたいです(笑)。

横山:この辺りは里山がたくさんあるんですよ。昔は人が入ってきてキノコや山菜を採ったり、腐葉土を持っていった。ただ震災後は誰も採りに来なくなってしまったんですね。人が来ないと草がどんどん生えてしまう。人間とけものの境界が変わってきて、けものが里のほうに降りてきてしまうんです。

冬でもトレイルランニングは欠かさない

熊坂:イノシシが人の住むところに降りてきてしまうのは、そういう理由だったのですか。

横山:はい。ここからもイノシシが歩いているのがわかります。それで里山を走って人間の臭いでマーキングしている。走っているところを「#里山なう」とハッシュタグをつけてSNSに上げると、他の人もそれを見て走りに来てくれます。ランナーが走ってくれるとけものは里山にいなくなる。

熊坂:里山が荒れると、けものと人間の境界線が浸食される。

横山:そうだと思います。エサ不足や人間の生ごみの管理の悪さなどもあるかとは思いますが、草ぼうぼうで誰もいない山にすると、けものは安心して出てきてしまう。その管理とトレーニング目的で裏山を走っているんです。

■先輩僧にコピーライター養成講座を勧められる

熊坂:そういう日課のなか、「テラヨガメシ」のイベントも企画されていますよね。あれはどんなイベントなんですか。

横山:年に5回~6回、隔月で行っています。第1回は2009年でした。

熊坂:約8年前からイベントをやっていたんですね。お寺イベントとしては先駆けだったのではないでしょうか。なぜ始めようとしたのですか。

横山:当時、「ワンコイン修行」という座禅会を開催していました。ワンコインというキーワードが流行っていたんです。その頃コピーライターの授業を受けていたので、「お手軽×安い×厳しい」という掛け合わせでやったらおもしろいかなと思ったんです。キーワード検索でヒットしたらしく、取材も何件か来ました。その座禅会にヨガの先生が来ていたんです。「こういう場所があるなら何かやらせてほしいと」お話をいただきました。せっかくなら、場所貸しだけでなく一緒に何かやりましょうということで考えた企画が「テラヨガ」だったんですね。

熊坂:横山さんのイベントは、場所貸しでなくコラボという考え方が貫かれているのがすごいなと思います。それにしても、宣伝会議の講座に参加していたのですね。納得です。きっかけは?

横山:お坊さんの先輩で宣伝会議のコピーライター養成講座に行っていた人が何人かいたんです。そのうちの一人がハワイのお寺に赴任していた方でした。向こうは厳しくて、檀家さんが住職を評価して、つまらないとお寺を追い出されてしまう。そこで10年以上続けてこられた方から勧められたんですね。短い言葉できちんと伝える、ネーミングを考える、世の中が何を考えているかヒアリングする勉強をしなさいと。

熊坂:そのスキルはやはりお寺にとって大事だと思いますか?

横山:今とても役に立っていますね。

熊坂:一見、お寺という保守的なイメージとクリエイティブがミスマッチのように思えますけどそうではないんですね。

横山:何百年と変わらない行いを修行僧たちが毎日黙々と重ねていく。その役割は本山か修行道場がもつものだと思うんです。うちは支店みたいなものですから、末端ならではの小さな活動が大事だと思っています。どちらも大事なんですね。

熊坂:横山さんは学校を出てからすぐにお寺の世界へ入られたのですか?

横山:大学を出て横浜の修行道場に1年。24歳から27歳まで副住職としてこちらに勤めていました。

熊坂:安洞院の何代目ですか。

横山:私で17代目、開山してから422年です。

熊坂:そんなに歴史があるのですね。お寺の跡を継ぐ以外の選択肢はなかった?

横山:そうですね。私は長男でしたから。お寺を継いだのは嫌々では全然なくて、やりたかったんです。人がたくさん集まったり、いろいろな行事がある。先進的なものは檀家さんが持ってきてくれましたし、僕らが大学に行っていたころは、お寺がいろいろな活動を始めていた時期だったんですね。

熊坂:人気の「テラヨガメシ」は何名ぐらい集まるのですか。

テラヨガメシの様子。住職自らがサービスを行う

横山:今は30名定員でやっていますけど、毎回満員でやっています。料金設定は高めですが、毎回きちんとしたものを出したいですし、先生にもきちんと謝礼を出したいので。

熊坂:私が参加した時はインドカレーの時で、すごくおいしかったんですよね。「インドカレー食べさせられ放題」とか企画が本当に面白くて。

横山:お寺で健康法をやるのは、そんなに新しいことではないかもしれません。何度も訪ねたタイの最古の寺院ワットポーでは、ルーシーダットンでお坊さんが修行で疲れた体をセルフケアする。中国のお寺では少林寺拳法や太極拳をやっている。日本で言えばラジオ体操をするようなことですからね。座禅も仏様の前で何かを食べるというのも、昔からよくあります。

熊坂:なるほど。その見せ方を今のトレンドに合わせて変えているということですね。

座禅講座用のサインボードも自ら制作。所要時間1分。

Mitsui Misako(満井みさ子)

ライター。郡山市育ち郡山市在住。女性の新しい働き方を応援する「スペシャリスト女子会」を毎月郡山市内で開催しています。

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