「ワインインポーター」ってどんな仕事?どうやって始めるの?最近起業した人に聞いてみた
あまり知られていないけど面白そうな仕事「ワインインポーター」
2018.04.02
■「ワインインポーター」とは?
日本人の年間ワイン消費量がここ10年間で右肩上がりに増え、ワインを飲む習慣が日本でも定着してきています。それに伴い、ワインに関わる仕事をしたいと考える人も増えています。
代表格「ソムリエ」は誰でもご存じと思いますが、「ワインインポーター」という仕事はどうでしょうか。どちらかというと裏方の仕事なのでネット上での情報は少なく、あまり知られていない仕事のひとつです。
ワインインポーターとは、海外のワイン生産地からワインを輸入(インポート)し、日本に紹介する仕事のことです。大手商社から個人企業まで規模はいろいろですが、私たちが様々な生産地やブランドのワインが楽しめるようになるためには欠かせない存在なのです。
数多ある世界のワインの中から「これだ!」というワインを見つけ出し、生産者と交渉する。ワイン好きならやってみたいと思う人も多いかもしれません。しかし、目利きだけでなく、生産者との信頼を築かなければ仕事は始まりません。未経験者には難しいように思えますが、実際はどうなのでしょうか。
そこで、3年前にワインインポーターとして起業した福島県田村市「ミルグラン」代表の片吉慶太郎さんを訪ね、インポーターの仕事について聞いてみました。片吉さんはフランスワインを中心に、日本では扱われていないワインを輸入、新たな市場を切り開いています。

片吉慶太郎さん
株式会社ミルグラン代表取締役C.E.O 一般社団法人日本ソムリエ協会認定ソムリエ 。
1977年生まれ。福島県田村市船引町出身。「ミルグラン」は、千の種という意味。
■東日本大震災がきっかけでインポーター起業
片吉さんは、都内の大学でフランス語を中心にヨーロッパ文化を学びました。卒業後、内定していた就職を断り、ワーキングホリデービザ制度で2001年、フランスに渡ります。パリのシャルルドゴール空港で航空会社の地上職として1年間勤務した片吉さんは仕事を通して生きたフランス語や英語を身につけます。
――ワインと出会ったのはパリで暮らしていた時だったのですか。
「そうです。パリでは、生活そのものが楽しかったですね。パンやバターだけでも美味しいので、それと水があればあとは暮らせると思ったぐらいです。ワインもテーブルワインですら十分美味しいんですよ。帰国後、一般企業に勤めましたが、フランスに関係する仕事がしたいと思うようになりました。そのためにはまずはワインエキスパートの資格を取ろうと田崎真也さんのワインサロンに通い資格を取得しました」
その後、2004年にワインの輸入や小売店を有名百貨店を中心に全国で展開するエノテカに入社。会社が急成長し激務を重ねた日々のなかで片吉さんには豊富なワインの知識を身につけます。
2007年、田村市船引町に戻り、実家の中華料理店の仕事をしながら、チャンスがあればワインを自分で輸入したいという思いを温めました。
——片吉さんがワインインポーターの会社を立ち上げたのは、2015年ということですが、何が背中を押したのですか。
「東日本大震災ですね。未曾有の大災害を経験して、想いをずっと抱えているのならやってしまおうと思ったんです。資金的にも、新規創業促進補助金制度ができた頃で、運良く事業認定を受けることができました。それを利用してワイン輸入会社ミルグランを開業しました。そこまではうまくいったものの、事業計画はまだまだ定まっていませんでした。フランスワインに特化したいと決めてはいましたが、自分の強みを生かすためにはどんなワインを扱えばいいのかコンセプトが絞りきれないままの、いわば見切りスタートだったのです」
——ミルグランで現在扱っているワインにはどうやって出会ったのですか
「何を仕入れるか決めかねていたまま、フランスのボルドーで開催された世界的なワインの展示会『VINEXPO』を見に行ったんです。会社を立ち上げる前から、ワインの展示会には出かけていたのですが、いざ自分が扱うと思うと、面白いもので会社員時代と全く景色が違って見えました。しかし広大な会場でブースを見て回っても、なかなかビジョンが見えませんでした。
——それでどうされたのですか。
パリのワイン商でマネージャーとして働き、日本国内のインポーターに情報を提供していたエノテカの先輩がいて、度々相談していたんです。彼にお会いしてアドバイスを求めたところ、『フランスワインという範囲で考えると漠然としてしまうから、どこか一つにエリアを絞るといいよ。ボルドーやブルゴーニュはすでに扱っている会社が多いので、フランス内でも穴場的なエリアを探してみたら』と言われました」
――確かに、ボルドーやブルゴーニュは日本でもたくさんありますし、あとから参入するのは難しそうですね。
「そこで、はじめに扱おうと注目したのが、南フランス、ラングドック地方のワインです。南フランスというと、のどかな田園風景を想像する方が多いと思いますが、実は内陸に入ると岩肌が現れているゴツゴツした山に囲まれた地域です。しかしその自然が寒暖差のある気候をもたらし、味のよいぶどうが豊富にできるのです。美味しいワインができて当たり前という環境のため、ボルドーやブルゴーニュのようなブランド化をしてこなかった。そのためにクオリティーの高さに比べて値段が手頃なんです。チャンスがいっぱいある地域だなと思いました」

最初の扱い商品「マス・デ・ブルース 」の生産地・ラングドッグ地方の風景

オーナーのザヴィエ・ペイロー氏。有機農法を取り入れ、限りなく自然な栽培と自然な醸造を行い、酸化防止剤も限りなく無添加で造る自然なワイン造りを行っている。
――そのほかに探すポイントはなんですか。
「家族経営の小さなワイナリーを探すようにしました。大きなワイナリーはすでにインポーターが決まっているケースが多いですが、家族経営の小規模なワイナリーはまだこれからというところがが多いのです。ミルグランで扱わせていただいているワインは、ほとんど家族経営のワイナリーのものです」
■フランス語の生産者ガイドを読み込み「クリュ・ボジョレー」に着目
—— そういった生産者の情報を得るためにはどうしたのですか。
「前述のパリの先輩に紹介していただいたり、あとは自分でも探しました。役立ったのがフランス語で書かれたワインの生産業者の一覧本です。地図が詳しいハードカバーの大型本と、評価の星がついているワインガイド年鑑“LE GUIDE des meilleurs vins de France”の2冊を照らし合わせながらじっくり読み込み、その中で星がついているもの、なおかつ手ごろな値段のものを見つけだしていきました」

フランス語で書かれた生産者一覧。詳しい地図が掲載され、生産地の地理的状況や土壌(テロワール)を把握することができる。

ミルグランが扱う「シャトー・ティヴァン」を指さす片吉さん。日本ではほぼ無名だが、価格に比して評価が高いところに着目した。
—— やはりフランス語ができるのは強みですね。探すコツはあるのですか。
「現地での評価と、日本での評価が必ずしも一致していないことがあるんです。たとえば、ボジョレーというと日本ではボジョレーヌーボーが有名ですが、実はヌーボーは早飲み用に造られた特殊なワインで、ボジョレー地区には通常の醸造で造られた高品質ワインもたくさんあるのです。ヌーボーと区別するために『クリュ・ボジョレー』と呼ばれているもので、コスパがいいということで世界的に人気が高まっています。私はここに注目し、ボジョレー地区でAOC(フランスの原産地認証)が認められている10の村のうちのひとつ『コート・ド・ブルイイ』の、ある生産者を見つけました」
——それがこの「シャトー・ティヴァン」ですね。
「そうです。ガメイというブドウの味わいが素直に表現された、香り高いチャーミングな味わいのワインです。パリの超高級ホテル『ジョルジュ・サンク』内の3つ星レストラン『ル・サンク』でもオンリストされているぐらいフランスで評価が高いのです。取扱をさせていただいてからも、クリュ・ボジョレーの代表格として海外のワイン専門誌で紹介されたり、ワイン評論で権威のある英ガーディアン紙の『コスパワイン6選』に選ばれるなどしています。どんな食事にも合いやすいということで、納入先のレストランからも高評価をいただいています」

ミルグランのトップセラー商品・シャトー・ティヴァンのラインナップ

2018年2月にシャトー・ティヴァンを訪問、オーナーのクロード・ジョフレ氏と一緒にテイスティング、畑の見学、そして醸造中の2017年のワインを試飲した。
—— 輸入取り扱いを始めるには、生産者と直接交渉するのですか
「ケースバイケースです。直接交渉することもあれば、生産者の意向でエージェントを通さないといけない場合もあります。相手の考え方で色々です。逆に、どうしてもAというワインを日本で取り扱いたい場合は、下調べしてこちらからエージェントに頼み込む場合もあります。生産者一人について国ごとに業者は一つという商習慣もあります。ですので、こちらの希望するワインの取引はできないと一方的に連絡されることも普通ですから、そこからの交渉力が求められる世界です」
■どう売っていいかわからずむやみやたらに営業
――輸入したら次は売り先ですね。仕入れたワインをどのようにして売っているのですか。
「そこですよね。どうやって売ったらいいんですかね(笑)。・・・というのは冗談ですが、最初は正直、どうしていいか全くわかりませんでした。とりあえずは営業に行くしかないので、手当たり次第、酒屋さんやスーパー、飲食店さんなどに飛び込み営業していきました。しかしそうこうするうちにだんだんどこに行くべきかわかってきました」
――営業先が絞れてきたということでしょうか。
「当社のワインを飲んだ方に、『ワインにはスーパーで買って飲むワインとレストランでソムリエに薦められて楽しむワインの二通りある、ミルグランさんで扱っているワインは後者ですね』という評価をいただきました。ミルグランでは扱う商品の数もまだ限られていますので、主に飲食店さんに対して営業をしています。すでに卸の酒屋さんが入っているお店も多いので、そこはフレキシブルに対応しています。ソムリエの資格も持っていますので、メニューに合う最高のワインをおすすめできることで、飲食店さんに貢献できることは多いと思っています。現在は、福島県内だけでなく、都内の飲食店での展開にも力を入れています。とにかく全国を飛び回るので、時には『青春18きっぷ』を使いながら交通費を浮かせています(笑)」
■サクラアワード出品がダブル受賞、自分の目利きに自信を持つ
――今年のサクラアワード(※)ではミルグランで扱っている2銘柄が金賞と銀賞を受賞しましたね。おめでとうございます。
「ありがとうございます。前述の『マス・デ・ブルース』が銀賞を、そして金賞を受賞したこのシャンパーニュ(シャンパーニュ ローラン・シャルリエ ブリュット プルミエ・クリュ NV)は、海外での買い手を生産者が探していた銘柄で、初めての取引が当社でした。自信をもって選んだ商品でしたが、実際に世間でどのくらい評価されるのか知りたかったので出品してみたんです。自分で飲んで、現地でブドウをみて取扱いを決めたものだったので嬉しかった。自分の舌を信じてよかったと思います」
※日本女性によるワインの審査会。国内外からのエントリー数が年々増加し注目を集めているアワード。

サクラアワードで銀賞を受賞した「マス・デ・ブルース 赤 2015 AOP テラス・デュ・ラルザック」

金賞に輝いた「シャンパーニュ ローラン・シャルリエ ブリュット プルミエ・クリュ NV ”エッフェル塔ラベル”」(写真奥)

7代にわたって家族経営を続けるシャンパーニュのメゾン「ローラン・シャルリエ」のティボー・シャルリエ氏と。
■ワインの楽しみを提案していきたい
——これからどんな展開をしていかれますか。
「地道な営業を継続しながら国内の展示会に出展し続けてきた成果でしょうか、おかげさまで最近は認知度が上がってきています。今後はもっと扱う品種を増やしていきたいと思っています。今年は日本でもロゼワイン人気も広がり、飲まれる方が増えています。当社もロゼワインのラインナップを進めています。また、今後は和食店でのシャンパーニュのご提案もしていきたいと考えています。特に旅館はお食事を楽しみに来られる場所ですし、宿泊が前提ですから、お酒をゆっくり味わうチャンスなんです。グループやご家族で利用される皆様に、食事に合うワインをご提案できれば、お客様も納得しもっとワインを気軽にご注文してくれるのではないかと思います」

新規取扱いが決まった南フランス、ラングドック地方ピク・サン・ルーにある「シャトー・ド・ランシール」の畑に立つ片吉さん。自分の目で生産地を確かめたものだけを取り扱う姿勢を貫いている。
世界には、まだまだ知られざる良い生産者がつくる良いワインがたくさんあります。片吉さんのように、自分の眼力を信じ、良い生産者を見つけ出し、味を確かめ日本に紹介する「ワインインポーター」の活躍は、これからさらに必要とされてくことは間違いありません。
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