福島の金賞受賞蔵「金水晶」の酒造りを田植えから体験できるツアーに潜入!

移住者の女性が企画した、ローカル発信の個性派ツアー。

2018.05.25

日本酒

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東京で海外旅行の添乗員として活躍していた斉藤久美子さんは、東日本大震災後、海外で福島のネガティブイメージが強いことに心を痛め、福島に移住。福島の良さを伝えるツアー会社「株式会社f’sぽけっと」を立ち上げます。福島に住んでいるからこそ企画できるディープなツアーを次々打ち出す斉藤さん。今回は、福島市の金賞受賞蔵「金水晶」の酒米の田植え体験のツアーに同行しました。

■連続金賞受賞の酒造店の酒米を植える

先日、福島県産の日本酒が全国新酒鑑評会で6年連続日本一を獲得し、ニュースを賑わせました。

福島県産酒6年連続日本一 金賞19銘柄、全国新酒鑑評会(福島民友新聞社)

なかでも、福島市にある唯一の酒造会社、有限会社金水晶酒造店の大吟醸が8年連続を含む通算12回目の金賞を受賞。代々引き継がれてきた高い酒造技術は、多くの日本酒ファンを魅了しています。

その金水晶の酒造りを田植えから体験できる「酒米からつくる金水晶・その1(田植え編)ツアー」が発表されると、地元からはもちろん、首都圏からも申し込みがあり、ツアーはすぐに満席に。

開催された5月19日(土)は、前日の大雨が嘘のように空が澄み渡りました。

朝10時。JR東北本線・松川駅に集合した参加者をバスに乗せて、ほどなく酒米を植える福島市松川町水原地区の水田に到着。水を張った田んぼは、鏡のように空が映っていました。

今回植えるのは「夢の香(ゆめのかおり)」。福島県が開発した酒米です。大きな田んぼの一部ではなく、成長の様子がいつでも見えるよう配慮して、一枚の田んぼが提供されました。この田んぼから、約500本分の日本酒ができるのだそうです。

田んぼの向かい側にある地区の集会所で苗の植え方の説明をしてくれたのは、酒米農家の未来農業株式会社 代表取締役・丹野友幸さん。お酒が好きで、酒造りに関わりたいとサラリーマンを辞めて実家の農業を継いだ専業農家さんです。

「田んぼの中で“押すなよ!”は、フリじゃないですから。本当に押さないでくださいねー」と冗談を交えつつ、田植えのコツを説明してくださいました。

 

丹野友幸さん。農作業着が決まっています。

さっそく、集会所で田植え用の服に着替えて目の前の田んぼに向う一行。雨具の長靴ではやわらかい泥にはまって脱げてしまうため、サンダルや捨ててもいい靴下がおすすめとのこと。脱げにくい野鳥観察用の長靴を持参した方もいました。

金水晶酒造店 代表取締役社長の斎藤美幸(さいとう・みゆき)さんが先頭を切ると、皆さんも一定の間隔を守りながら植えていきます。西側から吹き降ろす風が強く、あおられないようにしっかり足を踏ん張らなくてはいけません。

手元の苗がなくなると、何十本まとめられた束が土手から投げ込まれます。それもスリリング。上手にキャッチしないと田んぼに着地して泥がはねてしまいますから!

「手で植えていると泥の感触がいいんです。楽しいですね」と福島市内から参加した小川さん。

田んぼには丹野さんが4日前から水をはって置いたため、意外と温かいのだそうです。

「福島の日本酒のおいしさに気づき、米を育てるところから体験してみたいと思って参加しました」。(小川さん)

東京から参加した浅野さんと居城さんは日本酒ファン。「できれば、自分で植えたお米でできた日本酒の初しぼりを飲んでみたいです」と今から楽しみにしています。

東京から参加の日本酒ファン(浅野さん、居城さん)

■昼食は、地元の料理と日本酒で歓迎

参加者が田植えにいそしんでいる間に、集会所に地元の郷土料理が運ばれてきます。料理を作ったのは「までい工房美彩恋人」の代表、渡邊とみ子さんと熊谷則子さん。

渡邊さんは福島市出身。相馬郡飯舘村で暮らしていましたが、東日本大震災で福島市に避難。「いいたて雪っ娘かぼちゃ」などのブランド野菜を育てるかたわら、農産加工品の企画生産販売や、飯館の郷土料理を後世に伝える活動を続けています。

今回のツアーのために、昨晩から仕込み、朝調理したばかりの郷土料理。

大皿に盛り付けられたのは、凍み大根の煮物・鶏のいも床焼・味噌じゃが・凍み餅・ヤーコンの甘梅シロップ漬け・いかにんじん・雪っ子かぼちゃのピザ・新玉ねぎの浅漬け。

地元の食材をふんだんに使った心づくしのメニューで田植えを終えた皆さんを迎えます。

大皿に盛り付けられた郷土料理の数々

福島の代表的な郷土料理「いかにんじん」。

料理を作った渡邊さんと熊谷さん

日本酒を堪能するツアー。テーブルには金水晶の一升瓶と仕込み水が置かれ、田植えをして乾いた喉を潤します。

砂糖醤油で絡めた柔らかい凍み餅や、さっぱりした鶏肉、材料一つ一つに味がしみた煮物などすべての料理と日本酒の相性がよく、お酒がすすんでいました。湯のみ茶碗に傾ける一升瓶も味がありますね。

日本酒とのマリアージュがバッチリな郷土料理。完売でした。

さらに、丹野さんの会社で作ったポン菓子や、味噌、渡邊さんが作った加工品が買えるのも、嬉しいサービスです。

お土産で配られたのは、丹野さんの自家製の糀を煮詰めて作ったジャム「甘糀」。

■海外旅行の添乗員をやめて福島に移住した理由

集会場の向かいにある水田では、先ほど植えたばかりの稲の葉裏がそよいでキラキラ光っています。

「稲の成長の様子をこれからSNSなどで発信していく予定です。自分たちで植えた稲が成長するのは楽しみですものね」と話すのは、今回のツアーを企画した株式会社f’sぽけっとの斉藤久美子さん。

「みんなに金水晶の初しぼりを体験してほしい」という斎藤美幸社長のアイデアから、「酒米を植えるところから稲刈りまで体験してもらって、自分で作った酒米の初しぼりが飲めるような企画にしよう」とツアーを実現させました。

斉藤さんは東京都江戸川区出身。実家が肉屋さんで小さい頃から肉の筋切りなどを手伝っていたいうこともあり、美味しい食べ物についてのこだわりを持ち続けていました。短大卒業後、大手航空会社の子会社に就職。その後都内の大手旅行代理店でヨーロッパなど海外旅行の添乗員として活躍していました。

世界を飛び回る斉藤さんに転機が訪れたのは2011年に東日本大震災が起きてしばらく経った頃でした。仕事先の海外で東北、特に両親の出身地である福島がマイナスイメージに捉えられていることを肌で感じた斉藤さんは心を痛めます。東北に来れば正しい状況がわかり、自分でも何かができるのではないかと福島市に移住を決意しました。福島市に被災していた渡邊とみ子さんと「かーちゃんの力・プロジェクト」で働き、その中で感じたのが、食べ物の持つ力だったと言います。

さらに、福島市では果樹農家を手伝い、果物作りを経験。「花が咲くこと、実がなること、その一つ一つが私にとって感動でした。でも地元の人は当たり前だと思っているんですよね」

そのギャップに気づいた斉藤さんは「当たり前だと思われている福島の魅力を県外の人たちに伝えたい」と、クラウドファンディングで資金を集めツアー会社を立ち上げます。「私が得意な旅行の仕事で、農家や食に関わる人たちのそれぞれ得意なことをコーディネートして行きたいんです」と話してくれました。

「肉は豚バラが一番おいしい」と語る斉藤さん。

■金水晶ができるまでを丹念に説明

午後は斎藤美幸社長の案内で酒蔵見学へ。

まず、バスから降りると酒蔵の裏手に皆さんを案内、奥羽山脈や阿武隈山地を臨みながら金水晶のある福島市松川町の位置関係を皆さんに伝えます。松川町は、福島市内の水源地として候補になったほど水資源が豊か。酒づくりに合った自然に囲まれています。

酒造所の敷地に入ると、大きな米を蒸す釜の前に。杜氏の菅野和也さん(右)ともに、麹の発酵過程についてお話ししてくれた斎藤美幸社長。

大量の蒸し米を90度の熱さに耐えながら冷やす工程に移す作業で、筋肉がついたと社員の須賀嶺(すが・りょう)さん

仕込みのない今だけ麹をまぜて発酵させる「麹室」も今回は特別に見学が許されます。仕込み中は、納豆やヨーグルトを食べた人は入れないほど、厳格な環境管理がされるのだそうです。

「麹室」 大吟醸を発酵するときは、発酵のムラが出ないよう、徹夜で温度管理をします。

たっぷり時間をかけて低温管理がされている貯蔵タンクや、酒造りに使う道具を工程順に見学させてもらいます。大吟醸純米酒と普通酒の工程の違いを学び、新酒の時期だけに作られる「直汲み」「無ろ過」の説明に斎藤美幸社長の熱がこもり、すぐにでも味わってみたくなります。

■酒蔵の中で数種のお酒を試飲

酒造工程を見学した後は、お酒が造られる酒造所や蔵という抜群のロケーションで試飲会。「五百万石」と「華吹雪」という酒米で造られた直汲み純米吟醸と今回、田植えした品種「夢の香」の純米大吟醸の3種を飲み比べます。

試飲した金水晶大吟醸3種類 (赤ラベル、ピンクラベル、白い大吟醸)

「とろりとしている」「こっちはフルーティ」「さらっとしている」

それぞれの個性を楽しむ皆さん。大学時代の授業で金水晶酒造店と縁があったと言う社員の須賀さんとも話が弾みます。

「おいしかったー」と口々に話すツアー参加者の皆さん。時間まで、本社にしか売っていない貴重なお酒もゲット。

バスに乗り込む前に、酒蔵見学のお土産に手渡されたのは「金水晶ワンカップ」。

今回のツアーの醍醐味、「田んぼで飲む」「酒蔵で飲む」「バスで飲む」がコンプリートされていました!

ツアーバスは酒蔵を離れて、福島市街地へ。向かったのは金水晶を手書きPOPで応援する店員さんがいる「セブンイレブン・東高成蹊高前店」。

そして一行はJR福島駅に。駅では福島県内の日本酒飲み比べができる福島県観光物産館や、田植えでかいた汗を流せる極楽湯が直結しているなど、気遣いの嬉しいツアー日程です。

今回の参加者は秋に行われる酒米の稲刈りツアーにも今から仮予約ができるとのこと。

福島市松川町の自然に囲まれながら金水晶ができるまでのサポーターになれるツアー。一味違う体験と、育てる喜び、知的好奇心を満たす楽しみであふれていました。

金水晶酒造店の前で記念撮影。みなさんいい表情です。

Mitsui Misako(満井みさ子)

ライター。郡山市育ち郡山市在住。女性の新しい働き方を応援する「スペシャリスト女子会」を毎月郡山市内で開催しています。

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