ひそかに人気上昇中の国際ワイン資格「WSET」とは?

日本のソムリエ試験との違い、資格取得のメリットなど

2018.07.09

ワイン WSET

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年間7万人が受験するワインの国際資格

「ソムリエ」「ワインエキスパート」とは違うワインの資格、WSET(ダブリュー・エス・イー・ティー)について知っている人はどのくらいいるだろうか。

私は酒販業の仕事をしているが、この業界ですら知らない人はかなり多い。ということでWSETについての話をしようと思う。この資格取得を考える際の判断材料になるならば幸いである。なおWSETはワインだけでなくウイスキーやジンなどのスピリッツ、さらに近年では日本酒の資格試験もあるが、ここでは割愛させていただき、ワインのみの話にしたい。

WSETとはWine & Spirit Education Trust (ワインとスピリッツの教育機関)の略で、1969年に創設された。多くの日本人は「ダブリュセット」と発音するが、本国ではアルファベット通り「ダブリュー・エス・イー・ティー」と発音するので注意したい。世界で年間7万人以上が受験する世界最大のワイン教育機関で、ロンドンに本部を置く。その原点は11世紀にあり、ロンドンのワイン商人たちのギルド、いわば商業組合みたいなものから始まった。

つまりWESTはワイン産業の発展と啓蒙を目指しており、端的に表現すればワインのセールスマンを育むことなのだ。飲食店のサービスマンであるソムリエを輩出する目的で始まった日本ソムリエ協会(JSA)とはその点で大きく違う。もっとも最近ではどちらにおいても、業界関係者ではない一般のワイン愛好家が資格習得を目指すケースが多くなってきているのではあるが。

WSETはLevel1からLevel4まである。Level3がJSAのソムリエ試験と同レベルとされる。つまりLevel1と2はソムリエ試験より簡単なのだ。また筆記のみでテイスティングの試験はない。もちろん日本語で受験できるし、今後のキャリアアップを考えてあえて英語で受験してもいい。テキストも日本語と英語両方あり、どちらも合格率は70%を超える。Level1と2に関しては、ソムリエ試験を受ける前の前哨戦として、またはそこまでの知識は必要ではないけれどワインを勉強したい、という方にはお勧めの試験だ。Level4はDiploma(ディプロマ)といい、とにかく難関なワインの資格として知られている。

WEST Level3の英語のテキスト。写真が豊富で分かりやすい。

どんな力が求められる試験なのか

Level3はテイスティング試験もあり、日本での合格率は30%と難しくなる。JSAソムリエ試験と同レベルと言われているが、設問形式も内容も違うため、ソムリエ資格保持者でもいきなり受験したら不合格もありうる。また日本語で受けるか英語で受けるかでも難易度は変わるであろう。というのもマークシート方式だけでなく記述式の問題もあり、そちらのほうが配点が高い。

例えば、「シャンパン」と「クレマン」の違いについて英語で5行程度で書け、という問題がある。これは日本語であっても頭でしっかりと理解していない限り、回答するのは容易ではない。試験時間があっという間に終わってしまうため、その場であれこれ考える暇などないのだ。

一方JSAソムリエ試験よりも簡単なところもある。まず丸暗記の量が少ない。JSAではメドックの格付けやドイツの畑、たぶん食べる機会はあまりないであろうフランスの郷土料理など細かなことまでを膨大に勉強しなければならないが、WSETではそのような設問はあまりない。メドックの五大シャトーを全く知らなくても大丈夫である。かつてはスピリッツの突っ込んだ問題もあったが、今はワイン以外の問題は出題されない。

テイスティングにおいても赤ワインと白ワインの2種類だけである。それ以外のお酒は出題されない。おそらくJSAソムリエ試験のテイスティング試験を突破してきた人ならば、英語での表現方法さえ覚えてしまえば難しくはないだろう。私自身Level3を受けたときには、筆記は一度不合格になったがテイスティングはすんなりと合格できた。周囲に聞いてもそういうパターンは多いようだ。

キャプランワインアカデミーにて酒精強化ワインの比較テイスティング。

いろいろ壁が多いWSET取得への道

WSET Level3以上を受験したほうがいいのかどうかという問題に入る。結論から先に言うと、国内で仕事をしている限りは無理して挑戦する必要はないし、資格がないからといってワイン業界でも不利になったりすることはない。ただし将来、世界で最も難しく権威のある「マスター・オブ・ワイン(MW)」を目指そうというのであれば、この取得は必須となる。

日本でWSETを受験するにあたってまだまだ壁が多いのだ。

まず第一に、受講及び受験が東京や大阪などの都市部に限定されている。現時点でWSETの日本での認定校は2校。講座数が多いのはキャプランワインアカデミー、そしてワインスクールの老舗アカデミー・デュ・ヴァンでも学ぶことができるが、Diploma(Level4)受験ための講座だと南青山のキャプランのみだ。これでは地方住在住者には経済的負担が大きすぎる。

第二に、原則、試験だけを受けることはできない。つまりJSAソムリエ試験のように独学での受験は不可なのである。Level1は講義と試験がセットになっているが、Level2と3はワインスクールの指定の講義受講が受験の条件となっている。例えばキャプランでLevel3を受験しようとすると、16回の講座と本試験含めて最低でも税込177,420円かかってしまう。これに交通費がかさむのだから、特に地方在住者だと経済的にかなりきつい。JSAの試験に対して教育や受験料のキャッシュバックを行うワイン業界の会社はあるが、WSETで受験料を肩代わりしてくれる会社は、一部あるのかもしれないが私はまだ聞いたことがない。

無事合格できたとしても仕事においてプラスになるのかという問題が残る。前述したとおり、業界人ですらWSETを知らない人はかなり多い。転職面接で履歴書にJSA認定ソムリエと書けば採用の確率は高まるかもしれないが、WSETだと面接官にスルーされるか中途半端に突っ込まれるかのどちらかの可能性が高い。ただ会社によっては英語でLevel3、さらにDiplomaに合格したのならば、英語力という点で一気に有利になる可能性もある。

無理してまで習得する必要はない資格だが、では逆に挑戦するメリットはあるのだろうか?

まずインポーター関係者はあるだろう。TOEIC高得点者でもワイン英語をこなせなければ意味がないからだ。ロンドンに本部を置くものの、世界基準を目指した資格なので、海外では日本の資格よりも通用する。その他海外と接点のある仕事をするにも好都合であろう。

また、JSAの試験に合格したものの何か物足りなさを感じてしまう人にはいいかもしれない。私はJSAの試験で膨大な知識を一時的に脳内にストックしたものの、残念ながらそれらは整理されることなく試験後に消えていった。知識の量よりも理論の質に重点を置くWSETはそんな私をすっきりとさせてくれるのであった。

まだまだ認知度の低いWSETだが、それでもここ数年で確実に普及したと思う。キャプランのWSET試験対策講座は年々増えていく一方だ。Diploma合格者も10年くらい前までは1年に1人くらいだったが、2017年では13人。WSETとしてもイギリスのワイン資格から世界のワイン資格へと認知されるべく活動している。今は日本でこの資格を目指すのはまだまだハードルが高くても、今後学びやすくなる可能性は十分ある。

<参考リンク>

WSETの公式ホームページ(日本語)
https://www.wsetglobal.com/jp/japanese-qualifications/

キャプランワインアカデミー「WSETとは?」
https://www.caplan.jp/wine/first/wset/index.html

Masahiro Kuze

岐阜出身。群馬県在中。JSA認定ソムリエ、ドイツワイン上級ケナー、WSET Level3の資格を持ち、感性と理性でワインを嗜むワインラヴァー。現在無謀にもWSET Diploma に挑戦中。

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