東広島の日本酒の魅力に触れた日〜地元食材と味わう10の酒蔵の味
瀬戸内海の蛸、鱧、黒瀬牛に合う日本酒とは
2018.08.07
■ありそうでなかった本格的ペアリングの日本酒発信イベント
8月3日、銀座で行われた東広島市主催の日本酒の発信イベント「東広島 日本酒の宴」に参加してきました。
まちなかにある半径1キロのエリアに7つの酒蔵が集積する東広島市西条は「兵庫の灘」「京都の伏見」とともに日本三大酒どころに数えられる銘醸地。酒蔵が立ち並ぶ町の風景は「日本の20世紀遺産20選」に選ばれ、酒蔵ツーリズムの目的地としても大きな注目を集めています。
今回のイベントは西条の7蔵に加え、瀬戸内海沿いの安芸津町から2蔵、西条に隣接する黒瀬町から1蔵、あわせて10蔵の酒が集結、3人の杜氏さんの話を聞きながら広島料理とのペアリングを楽しむというもの。単なる「飲み比べ」ではなく、土地の食材を使った料理とともに味わい、お酒のストーリーを聞くことで、より深くこの地のお酒を理解することができました。
会場は銀座一丁目にある広島アンテナショップ「ひろしまブランドショップ-TAU」の地下1Fにある創作和食「銀座 遠音近音 Ochi Koch(をちこち)」。

東広島の10蔵の酒が並ぶ姿は圧巻。右から「大吟醸 西條酒造学校(福美人酒造)」「純米吟醸 花凜(山陽鶴酒造)」「富久長 純米吟醸 八反草(今田酒造本店)」「於多福 純米吟醸(柄酒造)」「大吟醸 特製ゴールド賀茂鶴(賀茂鶴酒造)」「山田錦 純米酒(白牡丹酒造)」「純米吟醸 大地の冠(西條鶴醸造)」「鯉幟 純米吟醸 火入(金光酒造)」「純米酒 寒仕込(亀齢酒造)」「純米吟醸 山吹色の酒(賀茂泉酒造)」
ずらりと並んだお酒はそれぞれのストーリーを持っています。先月の西日本豪雨で東広島が甚大な被害を受けたのはご存じの通りですが、とりわけ安芸津町の柄(つか)酒造(写真右から4番目)はこうじ室が水損、この秋の仕込が難しい深刻な状況とのこと。つまり来年は飲めないかもしれないというお酒なのです。このイベントは、被災した地元を日本酒の面からも元気づけたい、という意図もあります。
また、この10月に全国公開される西条を舞台にした日本酒映画「恋のしずく」は、故・大杉漣さんの遺作として注目を集めていますが、撮影は東広島市で行われ、今回紹介された「鯉幟(こいのぼり)」(左から3番目)は映画用に造られた架空のお酒。撮影終了後に販売されたもので、蔵元役の大杉漣さんゆかりのお酒として、こちらも話題になりそうです。
そして写真中央「賀茂鶴ゴールド」は、オバマ前大統領が来日した際、安倍首相と「すきやばし次郎」で酌み交わしたお酒として話題になりました。

イベントを企画したのは東広島市観光振興課。鹿島修治係長(写真)によれば、こういったスタイルでレストランで行う日本酒イベントは初めての試みとのこと。
■吟醸酒のルーツとなった軟水特有の酒づくり
広島の酒の最大の特徴は「軟水でつくられた酒」であること。一般的に、カルシウムとマグネシウムの含有量が高い「硬水」のほうが、含有量が低い「軟水」よりも発酵が成功しやすく酒造りに向いていると言われています。硬水でつくられた酒は、代表格である灘の酒のように骨格がしっかりした辛口に仕上がります。
広島の蔵人たちも、最初は灘をお手本に酒造りを行っていたそうですが、その通りにやってもどうしても発酵がうまくいかない。その原因が水質の違いであることに気づくまで、かなりの時間を要したそうです。軟水に合う醸造は、「低温で長時間発酵させる」ことだということがわかり、安芸津出身の三浦仙三郎氏が研究を続けて軟水の醸造法を完成させ、広島の酒づくりを大きく発展させます。「低温でゆっくり発酵させる」軟水醸造法はその後全国に広がる吟醸酒造りに大きな影響を与えたと言われています。
今回、10種の酒をすべて飲ませていただきましたが、それぞれに個性はあるものの、共通して感じたのは口当たりの柔らかさ。口に含んだときのふんわり感とまろやかな味わいが軟水で造った東広島の酒の共通の魅力だと感じました。
出されたお料理は最後の食事(鯛の炊き込みご飯)を除いて5品。それぞれの料理に2種づつお酒がペアリングされていましたが、香りや味の強い主張型のお酒は少なく、お料理に寄り添うお酒、料理を引き立てるお酒で、おかげですべてのお料理を美味しくいただきました。その中から個人的に印象に残ったペアリングについて紹介したいと思います。
■刺身にベストマッチの安芸津の酒
瀬戸内海に面した安芸津町の「今田酒造本店」と今回被災した「柄酒造」のお酒は、広島直送のお造りとペアリングされていました。海に近い土地で造ったお酒と刺身がベストマッチであるのは言わずもがなでしょう。
太刀魚、鯛の昆布〆、イサキ、そして安芸津産の蛸。地場の魚を地酒で味わうという酒好きには至福のひとときです。蛸はシンプルに塩でいただき、安芸津の2種のお酒をそれぞれ楽しみました。
今田酒造本店の女性杜氏、今田美穂さんがゲストとして来場しており、自社のお酒について直接説明をいただきました。聞き慣れない「八反草」という米で造った富久長の純米吟醸はひときわ個性的な味がします。八反草は広島に古くからある酒米ですが、背が高いため栽培が難しく長らく途絶えていましたが、ほかにはない酒づくりを目指し富久長が復活させたのだそうです。栽培だけでなく硬い米なので酒造りも難しい。そこにあえて挑戦し、安芸津の土地を表現する酒造りをされています。今井杜氏の話からは、広島人の心意気を強く感じました。

八反草の純米吟醸を紹介する今田杜氏。
■だしの代わりにお酒を入れる「美酒鍋」
東広島の郷土料理「美酒鍋」。なんと、鍋のだしの代わりにお酒で具材を煮る鍋です。使われたのは賀茂鶴酒造の生貯蔵酒「冷温蔵生囲い」。火入れした酒ではなく生酒です。これを丸々1本入れて火にかけました。
どんなだしにもない、お酒独特の香味と風味のある鍋。初めていただく味で新鮮でした。合わせるのはもちろん、同じ賀茂鶴の大吟醸ゴールド、そして老舗・白牡丹酒造の山田錦を使った純米酒。
東広島の二大酒蔵のお酒と名物鍋の組み合わせを楽しみました。
■ぬる燗と地元産の和牛ステーキのペアリング
新たな発見だったのが最後の料理、ぬる燗とステーキのペアリングでした。軟水のお酒は、燗にするとさらにまろやかさがアップして美味しく感じます。そしてステーキという強めの食材には、冷やで飲むより燗のほうが肉の旨みを引き出してくれる気がします。
黒瀬牛に黒コショウを効かせたステーキは、もろみ味噌と一緒に食べるとさらに日本酒に合ってきます。
お酒は常温熟成で2〜3年寝かせた古酒「純米吟醸 山吹色の酒(賀茂泉酒造)」と「純米酒 寒仕込(亀齢酒造)」。独特の香りのする古酒は合わせる食材を選びそうですが、燗にして肉と合わせる、というのはすごくいいと思いました。また、寒仕込みの純米酒とも本当によく合っていました。
ほかにも、前菜と合わせた福美人酒造の「大吟醸 西條酒造学校」と山陽鶴酒造の「純米吟醸 花凜」は両方とも名前の通りのエレガントな味。そして鱧のジュレに合わせた西條鶴醸造の「純米吟醸 大地の冠」と金光酒造「鯉幟 純米吟醸 火入」のふたつの純米吟醸は、淡泊な鱧と見事に合っていました。
■東広島の酒、その強い発信力に注目
飲み手としてだけではなく、ローカルの食やお酒の発信に関わる者として感じるのは、東広島市の発信力の高さです。今回のような、東京のど真ん中で行う充実したペアリングイベントもそうですし、酒づくりをテーマにした映画「恋のしずく」、そして毎年二日間にわたって行われる「酒まつり」(今年は10月6日、7日開催)は20万人もの来場があると言います。今回、3名の杜氏さんが来場されていましたが、いずれの杜氏さんもプレゼン力があり、自社の酒についてだけでなく地域全体の酒造りについてそれぞれ講演ができるレベルの方ばかり。そしてみんなで一緒に盛り上げて行こうというチームワークも強く感じます。
「広島を日本の酒の中心地にしたい」
広島杜氏組合長、石川達也氏の強い言葉が印象に残りました。美味しいお酒のある場所だからこそ、人一倍の手間と努力で「そのことを伝える」ことをしなければならない。「中心地になる」ということは「発信地」になるということ。そのことをよく知り、着々と前に進んでいる東広島市は、これからも要注目のエリアです。

左から今田酒造本店代表取締役杜氏 今田美穂氏(今田酒造本店)、広島杜氏組合組合長 石川達也氏(竹鶴酒造)、賀茂鶴酒造二号蔵杜氏 椋田茂氏(賀茂鶴酒造)
最後になりましたが、西日本豪雨の被災地の1日も早い復旧・復興をお祈りしています。ちなみに映画「恋のしずく」の収益の一部は復興支援活動に寄付されるということです。
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