食&酒で東北の魅力をアピール。「テロワージュ東北」の発起人に話を聞いてみた
「生産地を訪れれば食事の満足度が高まる!」
2019.01.09
■訪日客にとって無名に等しい「東北地方」
大自然に恵まれ、温泉や食材の宝庫でもある東北地方。しかし観光地として東北を見た場合、残念ながらその魅力が十分にアピールされているとは言えません。
ここ数年、日本では海外からの観光客が急増し、2018年はついに3000万人を突破しました。しかし、こと東北地方に関して言えば、訪れる訪日客は日本全体のわずか1%台にとどまっているという統計があります。
訪日客が来ない理由は東日本大震災の影響との見方もありますが、一番大きな理由は、「そもそも知られていない」ということ。積極的に宣伝することを良しとしない東北人の奥ゆかしい気質が裏目に出て、他地域に比べて圧倒的に「PRや情報発信が足りていない」というのが識者の一致した意見です。
そんな中、東北の魅力を「食」と「酒」にフォーカスしてアピールし、観光客を増やしていこうと立ち上がった人がいます。
仙台市太白区「仙台秋保(あきう)醸造所」(秋保ワイナリー)のオーナー、毛利親房 (もうり・ちかふさ)さん。

毛利親房さん:1968年シアトル生まれ、7歳までを現地で過ごした帰国子女。帰国後仙台で4年間の子供時代を過ごす。東京に移り、中高、大学、就職を経て2003年、仙台に戻り設計事務所に勤務、2014年に起業のため退職。ワイナリーの仕事をするようになって外国人とのやりとりが多くなり、得意の英語が初めて役立っているという。
JR仙台駅から車で30分。仙台の奥座敷「秋保温泉」エリアにある秋保ワイナリーは、ブドウ畑、醸造所、ショップ、レストランがあり、コンパクトながらワインの魅力がつまった施設。日本酒文化が強い宮城県での希少なワイナリーということもあり、創業わずか4年目にして年間4万人が訪れる人気観光スポットに成長しています。
毛利さんはもともとワインとは全く無縁の建築畑の方でした。いわゆる「ワイン通」でもなく、グラス1杯で赤くなるほどお酒も弱い。
ワイン業界においてはいわば「ズブの素人」だった毛利さんですが、参入後わずか数年でここまで成し遂げた原動力となったのは、2011年の東日本大震災でした。
■震災直後の被災地の情景に突き動かされる
毛利さんは当時、設計事務所の社員として仙台市で働いていました。震災直後、ようやくガソリンを手に入れて被災した沿岸部へ状況確認に行くと、大津波の爪痕生々しい悲惨な情景がそこにありました。まさに壊滅的な状態。仙台の設計事務所に転職後、初めて設計した思い入れのある女川町(おながわまち)の温泉施設も跡形もなくなっているのを目の当たりにし、言葉を失います。74名の児童が犠牲になった石巻市の大川小学校に近づくと、もはや正視に耐えず、泣きながら仙台に戻ったそうです。
以来、毛利さんはどうしたらこの地が復興できるのか、自分は何ができるのかを真剣に考えるようになりました。
情報収集を重ねていくうち、「ワイン」というキーワードに辿り着きます。
食中酒であるワインは「食」との結びつきが強いお酒。海外のワイン生産地ではワイナリー訪問に食事や観光をからめた、いわゆる「ワインツーリズム」の成功事例がたくさんあります。ワインを作って地域の食材、たとえば石巻や松島の牡蠣などと一緒に楽しんでもらうようにすれば、そこに人が集まってくる。交流人口が増える。地元にお金が落ちる。
アイデアを聞いてもらった漁師さんたちの反応は非常に高く、期待も大きく、毛利さんはワイナリー設立に向けて動き出します。
ところが、計画の実行は困難を極めます。ブドウの生産地でワイナリーも多数ある隣の山形県とは打って変わって、宮城県のブドウ生産は全国44位、ワイナリーは当時1軒のみで、それも震災の津波で流失し廃業しており、ワイン産業は途絶えてしまっていました。ワイン文化も情報もない地域において、周囲に理解をしてもらうのは非常に難しかったと言います。候補地の選定や地域住民とのやりとり、資金調達など課題は山積みで、もうやめようかと思ったことも。
それでも家族の応援に支えられ、あきらめずにやっていくうち、毛利さんの熱い想いに共感する人が次々に現れます。協力者が協力者を呼ぶ形で最大の難関だった資金面の課題もクリア。一緒にやろうという醸造家も現れ、震災から3年後の2014年、念願のワイナリー設立が実現したのです。
■生産地を訪れることで食の満足度が高まる
ワイン生産も3年目となり、ワインビジネスも軌道に乗りはじめ基盤が固まりつつある中、毛利さんは本来の目的であった「ワインによる地域振興」という大きなテーマに取り組みはじめます。
軸となるのは「テロワージュ」というコンセプト。ワイン業界でよく使われる「気候風土の表現」という意味の「テロワール」と、「食とお酒のペアリング」を意味する「マリアージュ」という二つの言葉を合体させた、毛利さんオリジナルの造語です。ワインや日本酒などお酒単体で売るのではなく、食材の生産地であることの強みを活かし、土地に住む人や風景、文化も含めて表現・アピールして国内外から「現地に来てもらう」ことを目的としています。

ショップではワインに合う地域産のおつまみが置かれている。
2018年2月、そのテストケースとなる「テロワージュ仙台ツアー」が行われました。牡蠣や仙台牛の生産地を巡ったあと飲食店でテロワージュパーティを行うツアーで、パーティのみの参加も可能でしたが、興味深いことに、生産地を訪れた人のほうが明らかに満足度が高かったそうです。
美味しいものにお酒を合わせた食事は誰にとっても魅力的ですが、さらに生産地を知り、生産者と会話をすることで、理解と好感度が高まり、都市部では味わえない印象深い食体験を提供することが可能になります。
そこで毛利さんは、「テロワージュ仙台」にとどまらず、「テロワージュ宮城」、「テロワージュ福島」など県単位のテロワージュ、そして六県がひとつになる「テロワージュ東北」という大きなくくりで、お互いに連携をとりながら東北の食ツーリズムを全体的に盛り上げていこうという構想を打ち立てました。
2018年12月、「テロワージュ東北」の第一回のミーティングが仙台市で開かれました。突然の呼びかけにもかかわらず、毛利さんの想いに賛同し、東北各地から食や観光のキーマンが集まり、2019年から本格的に活動を開始することで合意を得ました。

懇親会では各地からの参加者が持ち寄った地域の酒が並んだ。
産声を上げたばかりの「テロワージュ東北」。2020年のオリンピックイヤー、そしてその後も東北の食の魅力を発信していくエンジンとなっていくことでしょう。今後の展開がとても楽しみです。

「アマローネ」で知られるイタリアの陰干しブドウの醸造技術を使った、できたばかりの新商品「SILENZIO(シレンツィオ)。秋保ワイナリー初となる高級ラインのこのワインには、伊達家の家紋をデザインしたラベルが貼られる。
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