郷土料理「ひきな炒り」と母と私。
2019.02.10
福島の郷土料理と言えば「イカにんじん」が定番になっている。
スルメイカと人参の千切りを和えるだけのシンプルな料理だが、味わい深く、地域全体での強力な推しもあり、最近では地元だけでなく全国的にも知名度が上がってきた。
でも福島の郷土料理はそれだけではない。
あまり知られていないが、「ひきな炒り」という料理もある。
「イカにんじん」がどちらかというとお酒のアテに向いているのに対し、「ひきな炒り」はごはんのおかずに最適。
「切り干し大根の煮物」を生大根で作った料理というとわかりやすいと思う。味付けもよく似ている。
子供のころ、寒くなって大根の美味しい季節になると、母は1週間に一度はこれを大量に作ってくれて、私は大好きでよく食べていた。
だから、そもそも郷土料理であることすら知らず、嫁に行った先で当たり前のようにこれを作ったところ家族に驚かれ、そこで初めて福島独特の料理であることを知った。
驚きというのは良い意味での驚きで、「こんな料理があったとは」「切り干し大根よりずっと美味しい」と大好評。
それ以来嫁ぎ先でも定番のおかずとなった。
美味しいだけじゃなくて安上がりなのも「ひきな炒り」の魅力だ。
何しろ大根と、少しの人参があればできる。そして油揚があれば御の字。母は油揚げの代わりに豆腐をよく使っていた。
時は流れ、今私は87歳になった母と実家で2人暮らしをしている。
母は昨年あたりから、この年齢にはよくある「嚥下障害」(飲み込みが悪くなること)で、とろみのついた柔らかい食事が中心だ。
咀嚼力も落ちているので、「すっと入る」ものでなければならない。
でないと「誤嚥(ごえん)」と言って、食べたものが肺に入ってしまい肺炎を引き起こし、非常にまずい状態になるのだ。
母に何を食べさせよう、というのが目下の私の課題なのだが、ふと、「ひきな炒り」があるじゃん。と思い出した。
生大根を炒め煮にするひきな炒りは切り干し大根と違って仕上がりがとても柔らかい。
根菜の栄養もたっぷり摂れて老人食にはぴったりだ。
なぜ今まであれを作らなかったのか。灯台下暗しというのはこういうことなんだろう。
ということで、冬が始まってから、私はせっせと「ひきな炒り」を作っている。
そして何度も作っていくうちに、様々なことに気づくようになった。
まず味付け。母にはたくさん食べてもらいたいので、濃い味付けはNG。
できるだけ薄味にしながらも、うまみも出さなければならない。
でも化学調味料は入れたくない。砂糖も押さえたい。
そうなると、大事なのは「大根そのもの」だということに気づいた。
そう、この料理の最大のポイントは「炒め煮」だということ。
炒め煮は、野菜の水分で煮るので、野菜の質が味を左右する。
スーパーに並ぶきれいで小さな大根ではなくて、地物の長くて重い大根。
なんでこんなに重いんだ!と思うぐらい水分たっぷりの大根がいい。
そして人参。甘みの強い種類を撰べば砂糖やみりんの代わりになる。
さらに酒。紙パックの料理酒ではなく、酒蔵が出しているこだわりの料理酒を使う。
私が使っているのは、福島の「仁井田本家」の 料理酒 『旬味』。
料理人の方が「これはみりん要らず」と絶賛していたので、それ以来、料理酒としては高いのだが、切らさずに使っている。
これらの素材、調味料を使って、時々味見をして様子を見ながら「最小限」の塩、醤油で済むように調整していく。
ということで、今回作ったひきな炒り。
前回は味のバランスはとても良かったが、全体的に味が濃かった。
今回はその半分ぐらいしか調味料しか使わないが、十分にうまみがあり、なによりとてもやさしい味に仕上がった。
茶色で全くインスタ映えはしないのだけど。
母に食べさせたら「旨い!」と一言。
たくさん食べてくれた。
うれしいもんです。
子供の頃さんざん食べさせてもらった母の得意料理を、今度は私が母に作って食べさせている。
料理をすることの奥深さと意味を、
そして人生の奥深さと意味までを、
私は今、「ひきな炒り」から学んでいる。
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「ひきな炒り」の作り方
大根を大量に千切りにする。人参は大根が10だとすると2か3ぐらい、同じく千切りにする。
油揚げを入れる場合はそれも千切りに。
深めのフライパンか中華鍋に軽く油を引き、材料をすべて投入して中火で炒め始める。
大根から水が出てかさが減ってきたら、砂糖(みりん)、塩、酒、醤油を入れて味をつける。
木べらでひたすら炒め回し、かさが半分ぐらいになったら蓋をして弱火で煮る。
大根の水分だけで煮るので、火加減に注意。強すぎると煮汁がなくなり焦げてしまう。
少し出汁を加えてもOK。
時々蓋を開けてかき回し、煮汁が少し残るぐらいで火を止めて、出来上がり。
調理時間15分~20分ほど。
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