地産地消の酒づくり「福島地域酒米研究会」講演会&新酒お披露目会 参加レポート

福島市で始まった「日本酒テロワール」の動きに注目。

2019.02.17

ローカルフード 日本酒

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■地域の良さを活かした酒づくりを目指す「福島地域酒米研究会」

日本酒の世界では今、「地酒回帰」がトレンドになっている。地元で育てた米と地元の水を使い、地元の酒蔵がかもす酒。その土地の土壌、風土、文化を表現した地域性のある酒を求める消費者が増えているのだ。

これはワインの「テロワール」という考え方に通じる。「日本酒テロワール」という呼び方もよく目にする。日本酒が海外でも人気となり、急速にグローバル化し、ワイン視点で語られるようになってきたと言えるだろう。

そんな中、福島市では一昨年「福島地域酒米研究会」が立ち上がった。福島市内で長く酒米づくりに注力してきた丹野友幸氏(未来農業株式会社)、福島市唯一の酒蔵「金水晶酒造店」の社長・斎藤美幸氏を中心に、「飯坂温泉地酒をつくる会」や酒づくりを授業の一環として行う福島大学の小山ゼミなど、福島地域で酒米や酒造りに関わる20名が名を連ねる。田植え、稲刈りはもちろん、研修、勉強会など様々な活動を通して地域性を追求したサステナブルな米づくり、酒づくりを目指す会だ。

2月16日、同会が主催する初めての講演会および新酒発表会が福島市で行われた。

講師は「吟醸酒の神様」の異名を持ち、吟醸酒に関する多数の著書がある吟醸酒評論家・篠田次郎氏。「地域産業、地域ブランドとなる酒米づくり」というテーマで講演が行われ、終了後は篠田氏を囲み、パーティ形式で、福島県オリジナル酒米「夢の香(ゆめのかおり)」など福島市産酒米を使用した15銘柄の試飲会が行れた。

参加者は一般募集され、定員を大幅に上回る80名弱の日本酒ファンが集まり、できたばかりの福島の地酒を楽しんだ。

開会の挨拶をする丹野友幸会長。副会長である斎藤美幸氏は、この日インフルエンザのため欠席。

お披露目会では日本酒に合う和食のコースが供された。

■「吟醸酒を最も飲んだ男」篠田次郎氏が語る「日本酒の売り方」

篠田次郎氏は、宮城県生まれ、福島大学出身で現在86歳。高齢しかも全盲というハンデをお持ちだが、それを全く感じさせない、まさに吟醸酒のようなキレのいい話ぶりが印象的だ。

一級建築士として数々の酒蔵の設計をする中で「吟醸酒」と出会い、その存在が全く知られていなかった昭和52年、「幻の日本酒を飲む会」という会を主催、以来44年間で564回、現在も毎月開催している。冗談めかして「日本で一番たくさん吟醸酒を飲んだ男です」と自らを語ったが、それに異論を唱える者はいない。

吟醸酒だけで9冊の本を執筆、さらに講演活動などを通じて吟醸酒の普及に力を注いできた篠田氏が指摘するのは、日本酒業界における「ジャーナリズムの不在」だ。吟醸酒を美味しいと思ってもそれを発言する場がない。未来を語る場もない。本を何冊も書いても、肝心の酒蔵の関係者が読んでくれないと嘆く。

吟醸酒人気もあって「日本酒ブーム」と言われている昨今だが、売り上げで見ると厳しい状況が続いている。日本酒の売り上げは昭和39年をピークに下がる一方で、いまではピーク時の3分の1に激減、全国に3500軒もあった酒蔵は、今や実働で800ほどになった。また、もうけの出ない日本酒の価格構造にも言及。1.8リットルで5,000円が相場の吟醸酒だが、原価率が高く、酒税、流通マージンを差し引くと酒蔵に残るのはほんのわずか。

それでも、酒蔵の努力で吟醸酒の質が上がり、世界的にも注目されている日本酒の「市場はある」と篠田氏は強調する。

では、どのようにお酒を売っていったらいいのか。

篠田氏が提案するのは「農家側が飲食店を利用して『酒の会』を開く」こと。

これはすごい指摘であると思った。というのは、酒蔵主催あるいは蔵元がゲストとして話をする、いわゆる「メーカーズディナー」スタイルの日本酒の会は全国で頻繁に行われているが、原料である「米」を作る農家さんが中心の日本酒イベントはほとんど見かけない。

ここにワインづくりと日本酒づくりの違いがある。ワインの場合、ワインメーカーは醸造だけでなくブドウ栽培を自ら行うか、深く関わっている。自分たちが目指すワインスタイル、テロワールを表現するワインを完成させるには、まずはブドウづくりだからだ。ワインのメーカーズディナーに行くと、醸造家が語るのは、醸造技術の話よりもむしろブドウ畑の環境やブドウ品種に関することが多く、参加者の興味もそこに集中する。一方で、米をよそから買う文化が長かった日本酒業界では、生産者は「農家」と「酒蔵」に分かれてしまうことが多い。

しかし日本酒ファンにとっては両方の話を聞きたいはずだ。特にこれまであまり聞く機会のなかった「酒米」、そして酒のもうひとつの主原料「水」の話も聞きたい。

昨秋、日本酒がもっと好きになる酒米収穫体験。金水晶「稲刈りツアー」同行記 で、「福島地域酒米研究会」会長の丹野友幸氏の「米」そして「水」の話に参加者が強く引きつけられたことをレポートしたが、そのことを思い出した。1時間弱の時間では足らず、みな口々に「もっと聞きたい」と言っていた。なるほど、篠田氏が提案するのはそういうことなのかと腹落ちする。

また、「飲み比べ」の楽しさも参加者に提供できるのも「酒の会」を開くことのメリットだとのこと。

■日本酒を海外に売るために

質問タイムでは、参加者から海外に日本酒を売るためのアドバイスを求められた。

篠田氏「みんな勘違いしているんです。品質がよければ売れると思っている。そうではない。酒を飲むには肴がいるんです。酒だけ売ろうとしてもダメ。和食も一緒に売らないと。外国人に『醤油』のうまさを知ってもらうことが大事なんです」。

外国人にとってとっつきにくい「醤油味」だが、一度知ってしまえば抵抗なく和食が食べられる。和食にはワインより断然日本酒のほうが合う。つまり、和食が広まれば自然に日本酒も広まる。

そして、世界的に「醤油のうまさ」をわからせたのが即席麺だったのだという。だから醤油味のカップヌードルが売れている国や地域では日本酒も売れる。

言われてみればなるほどだ。

平成25年、「和食」がユネスコ世界遺産に登録され、世界的な話題となった。篠田氏は、あのときなぜ日本酒業界は快哉を叫ばなかったのか。和食ブームに乗じて「和食に合うのは日本酒」と世界に売り込むチャンスだったと指摘する。

■日本酒の「テロワール」の違いを飲み比べで体感

講演後に行われた「新酒発表会」では、研究会の作り手の皆さんがブースを出し、福島地域産の「夢の香」や「五百万石」などで作った酒のテイスティングが行われた。

福島大学の学生から自分たちが作った純米吟醸酒の説明を受ける参加者

木幡浩福島市長も参加、担当者に話を聞きながら全銘柄を飲み比べていた。

講演会で「飲み比べ」の楽しさということを聞いたので、試しに2種の飲み比べをしてみた。こういうテイスティングの機会は飲み比べの絶好のチャンスでもある。

飲み比べたのは2種。金水晶の「金水晶 純米吟醸」と「飯坂温泉地酒をつくる会」の「純米吟醸 摺上川」。

両方とも酒米に「夢の香」を使い、作り手も同じ「金水晶」だ。しかし、田んぼの場所(松川町と飯坂町)、水系(水原と摺上川)が違う。つまり「テロワール」の違いがあるとするなら、それが明確にわかる飲み比べだ。

飲み比べた結果、面白いことに気づいた。二銘柄とも金水晶の特徴である「淡麗甘口」と言われる、やわらかい中にすっきりした甘みと酸味がある。よく似た味わいだが、「摺上川」のほうがより「甘み」と「酸味」がはっきりしている。多くの人はこれを「フルーティ」と表現すると思う。一方で「金水晶」はフルーティさを残しながらおだやかで、クセのない味。長年地元で愛されている味だ。ほかにも何人かに飲み比べをしてもらったが、同じ意見だった。

実は、飯坂町は桃の産地。もしやと思って代表の安藤忠作さんに聞いてみると、夢の香の田んぼがあるのは飯坂町湯野地区。桃農家が軒を連ねる地域だ。これは私の勝手な解釈だが、湯野は果物に適した土壌なので、米にもそれが反映されているのではないだろうか。

土壌によって味わいに微妙な変化があり、それそれの個性が表現されているのはとても面白い。

調子に乗って篠田氏に「金水晶」と「摺上川」を飲んでもらい、その気づきを聞いてもらうと、優しくうんうんと頷いて「いい酒だ」と一言。篠田氏のポリシーとして「利き酒能力は問わず」があったことを思い出し、ちょっと恥ずかしくなる。飲み比べと利き酒は違うのだ。

歯に衣着せぬ指摘と数々の金言。篠田氏にはローカルの食と酒を発信するメディアロケットへのアドバイスも頂戴した。

確かに飲み比べは楽しい。人と意見を共有しあうとさらに楽しくなる。ほかにもいろんなパターンで飲み比べをしたかったが、時間切れ。次回の楽しみにとっておきたい。

「お米と人、人と酒、酒と地域を結ぶ活動を広げていきたい」という福島地域酒米研究会。まだまだ始まったばかりのこの取り組みだが、地域を愛する者として、日本酒を愛する者ととして、これからも活動を応援していきたい。

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Hitomi Kumasaka (熊坂 仁美)

メディアロケット編集長。自他ともに認める食いしん坊でお酒好き。ラテン系だとよく言われます。

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