円熟の秋の夜長には円熟のお酒、ウィスキーを。(中編・ジャパニーズウィスキー)〜林智裕の「ウチにおいでよ!」Vol.18
読めばジャパニーズウイスキーに一気に詳しくなる!
2019.11.28
ここまで5大ウィスキーのうちの4つを飲んでみたけど、どうだった? 今度はいよいよ、日本のウィスキーも飲んでいこっか。(*´▽`*)
日本の本格ウィスキーのはじまりは、現在のニッカウィスキー創業者である竹鶴政孝氏が大正時代に単身スコットランドに渡り、学んできたところから。スコッチウィスキーをお手本として作られたので、味わいに似たところはあるものの、花開いた文化と味わいは「ジャパニーズウィスキー」という一つのジャンルを確立させるに充分なもの。近年では、日本各地の地ウィスキーもその存在感を発揮してきているよ。
ジャパニーズウィスキーを語る上で外せないのは、まずはサントリー。特に、山崎蒸留所かな。
現サントリーの寿屋がNHK朝ドラ「マッサン」のモデルでもある、スコットランド帰りの竹鶴政孝氏を招き京都と大阪の境にある山崎に造ったのが山崎蒸留所。水や環境がウィスキー造りに適していた上に原料の搬入や製品出荷に鉄道が使いやすい。そして羽柴秀吉が明智光秀を破った地であり、「天王山の決戦を制する」みたいな意味合いも込めての場所の選定であったのだとか。
(サントリーHPより)
サントリーのウィスキーは、現在では山崎蒸留所以外に山梨県の白州蒸留所も有名だね。味わいも蒸留所や樽ごとに違うので「これぞサントリーの味わい」とは一概には言えないものの、その上でボクが感じる全体的な印象としては「非常に繊細で柔らか」かな。スコッチウィスキー同様のピート香なども感じさせつつ、和食、なんなら懐石料理にすら合わせやすい淡く上品な、雅やかな気配を感じさせる味わい。まさに「ジャパニーズウィスキー」の代表格と言える名品揃いだね。(*´▽`*)
さらに特筆すべきは、サントリーはウィスキーを日本人に広めるために大きな役割を果たし、今も変わらず果たし続けていること。
ウィスキーは、たとえば海外ではそのままストレートグラスで飲んだり、せいぜい氷を入れてロックで飲むことが一般的で。ボクがスコットランドのパブで飲んだときにも、何軒かお店回ったけど飲み方は聞かれず当たり前のようにストレートで出てきたし、周りのお客さんもみんなストレートで飲んでたり。
でも、日本ではアルコール度数40度を超えるお酒をそのまま飲む習慣はあまり一般的とは言えなかったからね。水割りにしたりするのもそうだし、ここ15年くらいで再びブームになって定着した「ハイボール」という飲み方も発祥自体は海外と言われつつも、たくさんの人が普通に楽しんでいるのはやっぱり日本が中心みたい。
ウィスキーの魅力を引き出し、日本人が親しみやすい味わいのウィスキー自体を創るのはもちろん、飲み方にまで親しみやすさ、いわば「独自のウィスキー文化」をも創ってきたのがサントリー。こうした文化も含めてこそ、やはり「ジャパニーズウィスキー」の魅力はより輝く! なーんて。
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そして、もう一つ「ジャパニーズウィスキー」の代表格と言えるのが「ニッカウィスキー」。竹鶴政孝氏が独立して設立した「大日本果汁株式会社」からその名が付けられたんだって。
さて。ここで今こそ全ての日本国民に問います。『なぜ、ウィスキーの会社なのに「大日本果汁」なの?? 』
ウィスキーを作っている会社がどうして「ニッカ」なのかもわからずに、やれ「やっぱり八ッ橋はニッキ味に限りますわ~」などと言っている日本国民の何と多いことか! ……あんまり番組観てないんだけど、「チコちゃんに叱られる」のテンションってこんな感じだっけ??( *´艸`)
ともあれ、その答えは「その名の通りに果汁を売っていたから~!」なのです。
実はウィスキー造りをビジネスにする上での大きな困難の一つが、「製品の完成までにあまりにも時間がかかること」。いろんなお酒を見ても、表記に「12年」「15年」「17年」「21年」。なかには「30年」なんて書いてあるのもザラ。(しかも、ブレンデッドウィスキーに至っては、表記されているものはブレンドに使われている中で一番若い原酒の年数を表記するルールだったり)
さっき紹介したサントリーのHPにも『蒸溜所に日々大量の大麦が運び込まれるのに、キルンからはただ煙がたちのぼるばかりで、何も出てこない。村の人たちが「あの建物には、大麦を喰らうウスケという怪物がおるらしい」と訝った』なんてあるように、ウィスキーは製品が出荷されるまでに途方もない時間がかかるものなのです。
製品が出荷されるまでに10年を超える熟成期間を当然のように必要とするウィスキー。出荷されなければ当然、材料費や人件費、管理費用などは全く回収できません。その間の経営資金を確保しなければ、熟成が極まり仕上がったウィスキーが世の中に飛び立つのを待たずして、不渡りがキマり先に会社のクビが飛び立ってしまいかねないのでした。( ;∀;)
ニッカウィスキーが最初に蒸留所を構えたのはスコットランドの気候風土に近く、モルトを燻すのに使う泥炭(ピート)も採れるような北海道の余市(よいち)だったのだけど、ここは幕末の戊辰戦争に敗れた会津藩士の一部が移住し開拓した土地。この地域は開拓者たちが育てたリンゴが特産品になっていて、会津藩主松平容保公が孝明天皇より賜った衣などから名を借りたリンゴ品種「緋の衣(ひのころも)」をはじめとしたリンゴを加工して出荷することによって、会社の運転資金としていたのだそうな。
並々ならぬ努力と熱意というか。竹鶴政孝氏のサントリーとニッカ双方での活躍があってこそ、今のジャパニーズウィスキーの栄光と品質がある、ともいえるのだろうね。おかげさまで今こうして、美味しいウィスキー飲めてます。本当にありがとうございます。(/ω\)
そんなニッカウィスキーは、北の余市蒸留所はスコットランドの中でもハイランドや竹鶴政孝氏が学んだキャンベルタウンのような雄大な自然を感じさせる力強い味わいと香りとを感じさせ、その後に造られた宮城県の宮城峡蒸留所のものは、穏やかな気候のローランドウィスキーにも似て、滑らかでスムース、しかし深い奥行きを感じさせる味わい。昔、若い頃に北海道に遊びに行くのが好き+福島に暮らすボクは、余市にも宮城峡にも良く遊びに行ったものでした。
ボクのお気に入りは、この「ブレンド・オブ・ニッカ」。ガラス瓶のシルエットも美しく、シンプルなデザインながらバランス良い、しかしニッカらしさを感じる深い味わいが特徴。最近は、ウィスキーブームでの原酒不足で残念ながら終売になってしまったけれど。
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さて、「ジャパニーズウィスキー」の伝統的な2大メーカーといえばいま挙げたサントリーとニッカの二つの大手だけれど、最近はそればかりではないのです。(; ・`д・´)
ウィスキー文化が根付いた日本では各地に地ウィスキーが生まれ、特に近年高い実力を発揮するようになった蒸留所も少なくなかったり。
代表的なのが「イチローズモルト」で知られる、埼玉県秩父市にある「ベンチャーウィスキー」。今年の夏、香港のオークションでこの蒸留所が、前身の会社時代も含めて1985~2014年に限定品で出していたウィスキー54本セットが約1億円という金額で落札された…なんてニュースあったんだけど、知ってた? すごいよね。。。
世界的なウイスキーコンテスト「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」で2年連続 (2017年シングルカスクシングルモルトウイスキー部門、2018年ブレンデッド ウイスキー・リミテッドリリース部門) 世界最高賞を受賞するという、超新星と言えるメーカーなのです。世界一を取るって、相当だよ??
…といいつつ実はサントリーはたとえばISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)で、山崎1984が全部門1,000品の頂点となるSupreme Champion Spirit(最高賞)を受賞したり、ニッカもWWA(ワールド・ウィスキー・アワード)のブレンデッドモルトウィスキー部門で最高賞となるワールド・ベスト・ブレンデッドモルト(ピュアモルト)を竹鶴ブランドで8回も受賞していたりと、それぞれ「世界一の称号」を何度も獲得したことがあるので、ジャパニーズウィスキーの実力、やっぱり世界に通じるレベルだよね。。。
ベンチャーウィスキーのルーツは、現社長の祖父が設立した「東亜酒造」という会社。埼玉県北東部の羽生市でさまざまなお酒を製造していて、その中でウィスキーも蒸留していたのだけれどね。19年前の2000年に経営不振で民事再生法を申請し、2004年には他の会社に営業譲渡されることになってしまったんだ。
ところが、営業譲渡先の会社はウィスキー事業からの撤退を決断。羽生蒸留所のウィスキーは、引き取り先が無ければ廃棄されることになってしまったの。現在の評価を考えると、信じられないよね。
ちなみに、この羽生蒸留所の原酒は長崎の「グラバー園」などでも知られ、幕末から明治に日本の殖産興業に大きな役割を果たしたスコットランド生まれのグラバーの名を冠した390本限定販売の高級ウィスキー「ザ・グラバー22年」のブレンドでは、65%も使われているんだよ。そこにスコットランドのロングモーン蒸留所のウィスキーを合わせた日英のブレンデッドウィスキー「ザ・グラバー22年」。価格はなんと一本¥218,760! さすがに手が出ないけど飲んでみたいよね。
(画像は販売店サイトより)
ともあれ。今やこんなに評価が高いにも関わらず、その魅力が広く知られていなかった当時、廃棄の危機にあった原酒を救ってくれたのが、福島県の「笹の川酒造」。福島の日本酒飲みまくってるボクにとっては、めっちゃ身近な酒造さんだけど。
実は笹の川酒造さんも日本酒以外に地ウィスキーも造っていて、「山桜」「チェリーウィスキー」として知られててね。その中でも特に、数年前から発売され始めた「963」シリーズがかなりのヒットになりはじめている期待のウィスキー蒸留所なんだよね。963というのは、笹の川酒造さんがある郡山市の郵便番号の最初の3桁の数字。そこからネーミングとるんだ!って感じ(笑)
まだ熟成期間が短く若いウィスキーが多いけれど、すでにその将来性を強く感じさせてくれる笹の川のウィスキー。地元の蒸留所だからというだけではなく、本当に将来が楽しみでもあります。(*´▽`*)
ともあれ、この笹の川酒造さんが羽生蒸留所のウィスキーを預かってくれたことで、ベンチャーウィスキーはその後秩父に新しく造った蒸留所と旧羽生蒸留所のウィスキーを使って、いまや世界から注目される蒸留所として急成長したのでした。
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いままで紹介したサントリー、ニッカ、ベンチャー、笹の川の4つ以外にも、昔から知られている大手としては、静岡県でキリンが蒸留する「富士御殿場」や宝酒造が造る「キングウィスキー」。その他にも最近では兵庫県の江井ヶ嶋酒造が造る「あかし」、長野県の南信州などで蒸留した「マルスウィスキー」の本坊酒造、広島県の中国酒造の「戸河内ウィスキー」、「倉吉」ブランドで最近こちらでも良く見かけるようになった鳥取の松井酒造などが、どんどん頭角をあらわしはじめたところ。
ウィスキーそのものが熟成されて完成度があがっていくように、ジャパニーズウィスキーという流派と文化は、これからますます発展していくのだろうね。楽しみ。( *´艸`)
ちなみに日本でもこうして地ウィスキーの文化が盛んになっているけれど、世界的にも近年のウィスキーブームの中で、5大ウィスキー以外にも新しい、美味しいウィスキーが生まれはじめてるんだよ?
次回は、そういう新しいウィスキーの紹介と、ウィスキーの楽しみ方いろいろなんかをお話していくつもり。
それでは、美味しいウィスキーに乾杯♪ ( ^-^)/[□□]\(^-^ )
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